研究概要 |
申請者らはこれまでに、肝幹細胞におけるポリコーム群遺伝子Bmi1の機能解析を進め、肝幹細胞の自己複製性能維持や、腫瘍形成能の獲得に重要であることを明らかにしている(Chiba et al, Gastroenterology 133, 2007)。さらに、肝幹細胞に対するBmi1の強制発現によりInk4a-Arfの強い抑制がみとめられるものの、Ink4a-Arf欠損肝幹細胞自体の腫瘍形成能はなく、またBmi1を強制発現することによって更なる自己複製能の増強がみとめられることから、Ink4a-Arf以外の標的分子の存在が示唆されたため、マイクロアレイ解析によりSRY(sex determing region Y)-box 17 (SOX17)をはじめとする20個の候補遺伝子を同定しえた(論文投稿中)。 当初着目したSOX17遺伝子は、大腸癌において癌抑制遺伝子として機能するのみならず正常肝幹細胞の分化・増殖に極めて重要であった。しかし、肝癌培養細胞における検討では、一部の培養細胞株において異常メチル化によるgene silencingをみとめたものの、肝癌手術サンプルにおいては非癌部および癌部ともにその発現は弱く、癌抑制遺伝子としての役割は不明であった。今後は他の候補遺伝子に関しても解析を進める予定である。 ところで、正常肝幹細胞だけでなく肝癌幹細胞においても、BMI1がその維持に必須であるこどか明らかにされている(Chiba et al, Cancer Res 68, 2008)。PcGタンパクは、主としてPRC1とPRC2の2つの複合体を形成して機能するが、PRC2の主要な構成分子であるEZH2のノックダウンや、低分子化合物によるPRC2の機能阻害によっても、癌幹細胞分画の減少や、sphere形成能の低下が観察されている。本年度は、EHZ2による肝癌幹細胞の維持機構を解明するとともに、肝癌幹細胞に対する特異的治療法の標的分子としての可能性を追求したい。
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