研究概要 |
癌幹細胞研究は、癌幹細胞の分離・同定から、これらの細胞の制御機構の解明および新規の癌治療法の開発へと展開しつつある。ポリコーム(PcG)タンパクは、PRC1およびPRC2の2つの複合体を形成してエピジェネティックな転写制御を担い、正常幹細胞および癌幹細胞両者の自己複製制御においても極めて重要であることが知られている。PRC2の主要な分子であるEZH2は、ヒストンメチル化酵素活性を有し、PcG複合体による転写抑制の起点となるが、肝幹細胞を含めた組織幹細胞におけるPRC2の機能は未だ十分に解明されていない。 そこで、申請者らはまず、胎児肝臓由来の正常な肝幹細胞を用いたin vitroの解析を行った。その結果、肝幹細胞の自己複製制御においてEzh2が極めて重要な役割を果たし、Ezh2のノックダウンにより肝幹細胞の自己複製が抑制され、成熟肝細胞への分化が促進することを見出した(Chiba et al. J Hepatol 52, 2010)。次に、肝癌幹細胞として機能することが報告されているCD133陽性細胞、EpCAM陽性細胞を複数の肝癌培養細胞から分離・回収し、レンチウイルスベクターや低分子化合物3-deazaneplanocin A (DZNep)を用いたEZH2のloss-of-functionを行ったところ、肝癌幹細胞の分画の減少とともに、造腫瘍活性の低下などの機能抑制がみとめられた。 以上の結果から、正常な肝幹細胞と同様に肝癌幹細胞の維持においても、EZH2が必須であることが明らかであり、肝癌幹細胞を標的とした新規治療法の確立に向けて、EZH2の治療標的分子としての有用性が示唆された(論文投稿中)。
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