我が国の肝がん患者は20%がB型肝炎ウイルス(HBV)を保有しているが、ウイルスによる発がんがなぜ起こるのかは依然として明らかではない。宿主因子であるAPOBEC3Gは、ウイルスゲノムにC-to-Uの高頻度突然変異(hypermutation)を導入しウイルス複製を抑制するため、自然免疫因子として働くと考えられているが、本研究課題ではこのAPOBEC3Gを含むAPOBECsファミリーの直接的な作用及び関連因子の作用が、肝がん発症の引き金となる可能性を検討している。 本年度はC-to-Uによって生じるHBV DNA上のUに対する宿主因子UNGの作用を詳細に調べた。UNG阻害蛋白質であるUGIあるいはsiRNAを用いたUNGノックダウン実験により、インターフェロンα及びγで誘導されるAPOBECsによるHBV hvpermutationをUNGがキャンセルしていることを配列解析から明らかにした。APOBEC3Gによるウイルス抑制機構として、単なる変異導入のみならずウイルスDNA上のUをUNGが除去することによってDNA断片化を引き起こすというモデルが考えられているが、本実験ではウイルス粒子内のDNAにおいてUNGによる断片化は確認されなかった。ウイルス粒子を形成するHBc蛋白質の免疫沈降では、APOBEC3Gは共沈されたがUNGは検出されず、hypermutationがウイルス粒子内で起こるのに対して、UNGの作用は、核局在型のUNG2が核内において少ないコピー数で存在するHBV cccDNAをターゲットにしていると考えられた。 cccDNAはB型肝炎治療で用いられる抗ウイルス薬ラミブジンによっては除去されず、薬剤耐性やがん関連変異をはじめとする様々な変異株出現のソースと成り得るので、UNGがこのDNA formに対する変異率に影響を及ぼすことは重要な知見である。また、UNGによるウイルス粒子内HBV DNAの断片化は検出されなかったが、核内cccDNA断片化やこれに付随する細胞ゲノムへの挿入についてはがん化誘導とも関連して検討が必要と考えられるため、核内ウイルスDNAに対するAPOBECsとUNG作用についてさらなる解析を進めている。
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