本年度は、核内に存在するHBV cccDNAに対するUNGタンパク質の作用について、より詳細な解析に取り組んだ。HBVを安定発現する肝細胞培養株に対するインターフェロンαの刺激によりAPOBECs発現を誘導した後、抗ウイルス薬ラミブジンを添加した。ラミブジンは新たなHBV DNAの合成を止めるが、cccDNAは除去されない。この条件でUNG阻害によるcccDNAにおける変異頻度の検討をした。また、cccDNAの産生量が多く解析が容易であるduck HBV (DHBV)を用いて、APOBECs、UNGの作用を検討した。 HBV cccDNAをターゲットとした配列解析の結果、インターフェロンαにより引き起こされるウイルスゲノム上のC-to-U変異をUNGが核内で除去していることが示された。DHBVを用いた配列解析でも同様の結果が得られた。APOBEC3Gによるウイルス抑制機構の説明として、単なる変異導入のみならずその後のUNGによるU塩基除去がDNA断片化を引き起こすというモデルが想定されているが、DHBV cccDNA量はUNG活性の阻害によっては変化が見られなかった。これらのことから核内で起こるU塩基除去はウイルスDNAの断片化ではなく、細胞ゲノムにおける作用と同様に変異修復に働いている可能性が示唆された。 慢性B型肝炎ではHBVを完全に除去できれば肝硬変、肝がんへの進行が止まるが、既存の治療法では血中HBV量を減少させることはできても、細胞内cccDNAが維持されたままである。UNGはこのウイルスのリザーバーであるcccDNAの変異をキャンセルすることが本研究で示唆され、ウイルスに利する方向に働いていると考えられる。また、高頻度の突然変異はウイルスの遺伝情報を破壊するが、この変異率を低くするUNGの作用は、バランスによっては逆に薬剤耐性やがん化関連変異株出現の要因となりうる。以上より、本研究からHBVに対する抗ウイルス機構に付随して起こるUNG作用の病理学的意義を示す結果が得られた。
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