研究概要 |
オキサリプラチンは大腸がんのkey drugとして緩和目的だけでなく、術前、術後の補助化学療法にも広く用いられるようになってきた。一方感覚性神経障害がオキサリプラチンの用量規制因子となっている。オキサリプラチンによる神経障害の発症は個人差も大きく、併用薬剤、レジメン数、腫瘍のゲノム異常などの影響をほとんど受けないため、pharmacogenetic研究に適した評価対象と考えられる。我々は2008年4月より医の倫理委員会の承認を得て(承認番号G258)「オキサリプラチンによる神経障害と遺伝子多型との関連に関する臨床研究」を計画し、これまでにオキサリプラチンによる神経障害との関係が報告されている3つの遺伝子多型(GSTP1 Ile^<105>Val、AGXT Pro^<11>Leu、AGXTIle^<340>Met)とFOLFOX6 6コース終了後の神経障害との相関について検討した(N=82)。またコントロールとして健常日本人における同じ3つの遺伝子多型の頻度も検討した。その結果、AGXT Ile^<340>Metに関しては神経障害との相関は認めなかった(オッズ比1.25,95%信頼区間0.36-4.31,p値0.725)。AGXT Pro^<11>Leuに関しては健常人のコントロールも含め172検体中マイナーアレルは1例も認めず、日本人ではこの多型は極めて稀であることが確認された。一方GSTP1 Ile^<105>Valに関しては、グレード2/3の神経障害を訴えた群でグレード1の群と比してGSTP1 ^<105>Valのアレル頻度が高い傾向がみられたが(41% vs 24%)、統計学的に有意差は認めなかった(オッズ比2.23, 95%信頼区間0.85-5.82,p値0.098)。興味深いことにGrotheyらはオキサリプラチンの総投与量が600mg/m^2未満の場合ではGSTP1 ^<105>Valのアレル有する群で神経障害の頻度が高かったと報告しており、統計学的な有意差は認めなかったものの今回の我々の結果と合致する。すでに本研究の成果は国際雑誌に投稿、受理されており、今後本邦におけるオキサリプラチンの個別化治療を確立していく上で貴重な情報になると考える。現在もさらに症例を積み重ねてオキサリプラチンの治療効果や神経障害をターゲットとしたpharmacogenetic研究を継続している。
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