誘導型多能性幹細胞(iPS細胞)を利用して肝細胞分化誘導メカニズムを解明することを目的に、平成21年度は、4種類のマウスiPS細胞(理研より分与)を用いて、ES細胞で行われてきたいくつかの肝細胞分化誘導法を参考にiPS細胞のHGFを用いた肝細胞分化誘導法について詳細に検討した。しかし、検討の過程で、iPS細胞は細胞株間の性質の差が大きく、特に、同じ分化誘導法を用いても胚葉体形成能や誘導される細胞の種類・形態などが大きく異なることが分かった。今後、メカニズムの解析あるいは細胞移植への応用を考える上で、このような細胞株間の性質の差を十分に理解することは極めて重要な課題であると考え、まずcDNAマイクロアレイを用いて4種類のiPS細胞の胚葉体形成により変動する遺伝子を比較した。その結果、いくつかのプロテアーゼまたはプロテアーゼインヒビター遺伝子の発現パターンが、胚葉体により大きく異なることが分かった。これまでの報告から同定した遺伝子はピストンH3のプロセシングに関与する可能性があり、このことは、iPS細胞株間での誘導細胞の性質・形態の差がエピジェネティックなものであることを示唆している。今後は、iPS細胞からより均質な肝細胞分化誘導法を確立することを目的に、肝細胞分化誘導過程におけるピストンの修飾状態や同定した遺伝子の発現を時系列的に解析し、誘導機序の解明を行う予定である。また、同様の検討をヒトiPS細胞、または由来や作製方法・導入遺伝子の異なるiPS細胞でも検討を行い、由来や作製方法などにより肝細胞(または内胚葉系譜細胞)への分化誘導パターンがどのように異なるかについても検討する予定である。
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