我々は消化器癌において予後不良な膵臓癌においてこれまでにspectral karyotyping (SKY)法、fluorescence in situ hybridization (FISH)法を用いて網羅的染色体転座の解析を行ってきた。その中で高頻度に染色体異常を認めた部位の一つである8p12に位置する乳癌において融合遺伝子が報告されているNRG1が膵臓癌においても関連する可能性を考えた。さらにゲノムアレイ法およびFISH法で詳細な染色体切断点を解析したところ、細胞株22株中の2株(9%)において、NRG1内でゲノム切断が認められた。同遺伝子の発現はゲノム切断を認めた対象において低下および消失を認めておりNRG1は膵臓癌の発癌に関与していると考えられた。今後我々は、NRG1の融合遺伝子の存在を強く考え、ゲノムアレイ法や我々が開発したcDNAバブルPCR法を用いてその探索を行う予定である。また、他の遺伝子においても融合遺伝子の存在が推定でき、これまで膵臓癌において研究がすすめられているP53やK-RASなどとは全く異なる新しい発癌のメカニズムが判明することとなる。さらに最近の報告ではNRG1はoncogeneおよびtumor suppressor geneいずれの側面も持つ遺伝子であり今後同遺伝子のメチル化やmutationについても検討を予定している.それらにより飛躍的に病態の解明がなされれば膵臓癌の予後が改善できる可能性があると考え研究を進めている。
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