研究概要 |
アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)がNASH関連肝発癌を予防しうるかを検討するため、肝脂肪化を伴い慢性炎症性変化を生じて肝線維化が進展しやがては肝発癌に至る動物モデルであるCholine-deficient,L-amino acid-defined (CDAA)食誘発脂肪肝ラットを用いて、以下の実験をおこなった。6週齢Wistar雄性ラットに最初の24週CDAAを摂取させ肝硬変を完成させた。その後代表的なARBであるテルミサルタン(2mg/kg)を服用する群と対照群の2群にわけ、更に24週CDAAを摂取させた。CDAA投与計48週後にラットを犠死させ、肝線維化や発癌の程度を比較した。その結果、CDAA投与24週後にラットは全例肝硬変に至り、その後更に24週間CDAAを摂取させると対照群で肝硬変が増悪したが、テルミサルタン服用群では肝線維化が著明に改善し、肝における活性化肝星細胞のマーカーであるα-SMA抗体陽性細胞もテルミサルタン群で著明に減少し(対照群;66.7土9.3%,テルミサルタン群;37.0±11.5%,p<0.05)、前癌病変のマーカーであるGST-P抗体陽性細胞もテルミサルタン群で著明に減少した(対照群;14.8±2.7%,テルミサルタン群;4.8±2.0%,p<0.01)。また肝細胞癌に関してはテルミサルタン群でほとんど確認されなかったが、対照群で54,5%に発癌や異型性を認めた。一方肝脂肪化に関しては肝内中性脂肪量を定量したが、テルミサルタン群で有意な低下は認めなかった。本研究より肝硬変にいたった時点からでもARBを投与することで肝線維化は軽快し、発癌予防しうる可能性が示唆された。近年ウイルス性肝炎関連の肝発癌のみならず、NASH関連の発癌が増加しているとの報告がある中、肝硬変になってからでもARBは肝線維化に対して抑制的に働き、将来的にNASH関連発癌の予防に応用しうる点において意義があるものと考えられた。
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