研究概要 |
アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)がNASH関連肝発癌を予防しうるかを検討するため、肝脂肪化を伴い慢性炎症性変化を生じて肝線維化が進展しやがては肝発癌に至る動物モデルである Choline-deficient,L-amino acid-defined(CD飴)食誘発脂肪肝ラットを用いて、これまで以下の実験を行ってきた。6週齢Wistar雄性ラットに最初の24週CDAAを摂取させ肝硬変を完成させた。その後代表的なARBであるテルミサルタン(2mg/kg)を服用する群と対照群の2群にわけ、更に24週CDAAを摂取させた。CDAA投与計48週後にラットを犠死させ、肝線維化や発癌の程度を比較した。その結果、CDAA投与24週後にラットは全例肝硬変に至り、その後更に24週間CDAAを摂取させると対照群で肝硬変が増悪したが、テルミサルタン群では肝線維化が著明に改善し、肝における活性化肝星細胞のマーカーであるα-SMA抗体陽性細胞もテルミサルタン群で著明に減少し、前癌病変のマーカーであるGST-P抗体陽性細胞もテルミサルタン群で著明に減少した。さらに肝細胞癌に関してはテルミサルタン群でほとんど確認されなかったが、対照群で54.5%に発癌を認めた。そこで本年度は発癌における血管新生に関わる分子である、HIF-1αの肝における発現の検討を行った。するとCDAA投与計48週でHIF-1α陽性細胞は対照群およびCDAA投与24週投与群に比べ著明に増加したが、テルミサルタン群でHIF-1α陽性細胞は著明に低下した。本研究より肝硬変にいたった時点からでもARBを投与することで肝線維化は軽快し、発癌予防しうる可能性が示唆され、テルミサルタンは発癌の血管新生に関わるHIF-1αを阻害する可能性が示唆された。近年、NASH関連の肝発癌が増加しているとの報告がある中、肝硬変に至ってからでもARBは肝線維化に対して抑制的に働き、将来的にNASH関連発癌の予防に応用しうる可能性がある点で意義があるものと考えられた。
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