大腸粘膜におけるWnt-5a発現に関して、炎症の病態との関与を検討するため、ヒト潰瘍性大腸炎患者におけるWnt-5a mRNA発現を検討した。検体を採取した患者は、正常群、潰瘍性大腸炎寛解期群、潰瘍性大腸炎活動期群の3群とし、大腸内視鏡検査施行時にS状結腸からの生検組織中のWnt-5a mRNA発現をreal time PCRにて測定した。その結果、正常および寛解期の潰瘍性大腸炎患者から得た大腸粘膜組織ではWnt-5amRNA発現は低値であったが、活動期の潰瘍性大腸炎患者における大腸粘膜組織では有意にWnt-5a mRNA発現が増加していた。昨年度までの報告で、Wnt-5aが大腸粘膜上皮の分化、再生に関与することが分かっており、炎症病態における大腸粘膜の再生に関与していることが示唆される結果であった。この結果はWnt-5a発現の測定による粘膜再生の予測や、あるいは発現促進による粘膜治癒促進効果など、臨床病態改善にも応用できる結果であると考えられた。 また、潰瘍性大腸炎における大腸上皮細胞内の蛋白分解酵素阻害因子であるSERPINB1が、活動期潰瘍性大腸炎患者で上昇していることも同時に見いだした。細胞(YAMC cell)を用いた基礎実験でもSERPINB1の高発現が上皮細胞保護に働いていることが、本検討で明らかとなった。このSERPINB1発現は大腸粘膜におけるWnt-5a発現と逆相関しており、大腸Myofibroblastから分泌されたWnt-5aが大腸上皮細胞に対する作用の一つとしてSERPINB1発現制御に関与している可能性も考えられ、興味深い結果であった。今後の臨床および基礎検討によってこれらの分子の、炎症性腸疾患の病態における役割が明らかになることを期待したい。
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