申請者は筋特異的発現遺伝子(MURCと命名)を同定し心臓特異的過剰発現モデルでの線維化を伴う心機能低下とその機序について報告した。このモデルは心肥大を経由して心不全に至る特徴を持っており、本研究ではMURCの心筋細胞肥大との関係についてさらなる検討を行った。Dahl食塩感受性高血圧ラットによる圧負荷肥大心モデルでは心肥大・心不全両期においてMURC発現の増加が認められた。ヒト心不全期の心筋組織からのマイクロアレイでも肺高血圧に正比例してMURC発現が上昇していた。培養実験では組み換えアデノウイルスでMURCを過剰発現させることにより心筋細胞肥大とERK1/2活性化が起こりshRNAでノックダウンさせることによりα1アドレナリン受容体(A1AR)刺激による肥大反応は抑制された。さらにMEK阻害薬によるERK1/2活性抑制によりMURCによる心筋細胞肥大は抑制された。申請者の報告後に他グループからMURCが細胞膜のカベオラを構成するタンパク群であるcavin蛋白の1つであるという報告がなされ、カベオラがA1ARをはじめとする様々な受容体の局在部位であることからMURCとカベオラについても検討を行った。結果、MURCは他のcavin蛋白やcaveolin蛋白と複合体を形成していること、MURC過剰発現によりカベオラのサイズが拡大することを発見した。さらにMURCはA1ARとも相互結合しており、今回の肥大のシグナル伝達に重要な役割を果たしていたERKについてもリン酸化されたERK1がMURCと相互結合していることを突き止めた。過去の報告でERKのリン酸化は細胞膜で行われていると言われていたが、免疫染色にて細胞膜のMURCとリン酸化されたERKの局在が一部一致していることを確認し、細胞膜上でリン酸化されたERKはMURCと結合しながら肥大シグナルを制御している可能性が示唆された。
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