研究概要 |
動脈硬化病変を持つ血管の外膜には、微小血管(vasa vasorum, VV)が増殖しており、その外側は脂肪などの周囲組織に覆われている。本研究は、VVおよび血管周囲組織に着目し、動脈硬化病変との関連を明らかにすることを目的とする。マウスを用いた実験において、従来の解折法では、脆弱な血管外膜組織を破損せず、微小血管であるVVを描出することは困難であった。本研究では、組織標本作成法を工夫し、血管内皮マーカーであるレクチンによる灌流染色およびパラフィン包埋を用い、外膜構造を維持したまま、明視野顕微鏡による観察でVVを明瞭に描出することに成功した。また、液体レジンを注入してVVの鋳型を作成し、走査電顕を用いて描出することにも成功した。次に、血管新生因子である塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)徐放剤を、未だ血管病変を持たない若年動脈硬化モデルマウスの腹部大動脈周囲に留置し、血管外膜側から局所に供給される血管新生因子がVV増殖および動脈硬化病変形成へ及ぼす影響を検討した。高脂食を投与し13週間飼育後、上記手法を用い腹部大動脈を観察した。bFGF投与群では、血管外膜のVV増殖および動脈硬化病変形成を認めたが、リン酸緩衝液のみを投与した対照群では、VV増殖および病変形成は認められなかった。増殖したVVの周囲には、炎症細胞集積を認めた。以上より、外膜から供給された血管新生因子は、VVを増殖させ病変形成も促進したと考えられる。最近の報告では、血管周囲の脂肪組織は様々な生理活性物質を分泌しているとされており、本研究のモデルのように、血管外膜側から直接作用している可能性があると考えられる。しかし、同様に野生型マウスにbFGFを投与しても、VVは増殖したが、血管病変は形成されなかった。今後、VV増殖が動脈硬化病変形成を引き起こす機序をさらに詳細に検討する。また、血管新生阻害薬を外膜から局所投与することで、病変形成を調節することが可能であるかも検討する予定である。
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