背景:リンパ球・単球・マクロファージなどの骨髄由来細胞は平滑筋類似の形質を獲得し、血管リモデリングに寄与することが報告されている。本研究において、我々はリンパ球・単球・マクロファージのサブクラスの多様な機能と分化制御機構に着目し、血管病への骨髄由来細胞の機能を明らかにすることを試みた。 方法と結果: 1)マウスを用いた実験:マウス高分化型(収縮型)平滑筋に発現する平滑筋マーカー、平滑筋ミオシン重鎖(SM myosin heavy chain ; SM-MHC)に対するきわめて特異度の高い抗体を新たに作製、さらに細胞起源を研究する目的でSM-MHCノックインマウス(SM-MHCを発現するとLacZを発現する=X-gal染色で青色に染まる)、やや分化度の低い平滑筋にも発現する平滑筋マーカー、平滑筋α-アクチン(SMα-actin)が発現するとGFPが発現するトランスジェニックマウスの両マウスラインを確立、それらのマウスの骨髄細胞を放射線により骨髄細胞を破壊した野生型マウスに移植し、さまざまな血管リモデリングのモデルマウス(ガイドワイヤーによる血管障害モデル、ApoEノックマウスを用いた高コレステロール動脈硬化モデル、心移植による動脈硬化モデル)を行い、骨髄由来細胞の関与と分化度を検討した。その結果、骨髄由来細胞は、(1)血管リモデリング部位に浸潤する(2)SM-MHCは発現しないが、SMα-actinは発現する。ということが明らかとなった。そのため、血管リモデリングにおいて、骨髄由来細胞は、平滑筋細胞様の形質を獲得するが、高分化型平滑筋細胞へは分化しない、ということが明らかとなった。さらに、その骨髄由来平滑筋"様"細胞の働きや細胞系を詳しく解析するため、動脈リモデリングマウスから骨髄由来SMα-actin陽性細胞(骨髄由来平滑筋"様"細胞)を単離し、その形質を詳細に検討したところ、骨髄由来平滑筋"様"細胞は炎症性単球(inflammatory monocytes)の形質を有することが明らかとなった。 2)心筋梗塞症例の閉塞冠動脈から吸引された血栓の解析:心筋梗塞の診断にて東京大学付属病院に入院した68人から吸引された108個の冠動脈内血栓を組織学的に検討したところ、血栓内に含まれる幼若細胞(CD34陽性細胞)の比率が高いほど、慢性期の再狭窄が高率であった。 結語: 骨髄由来細胞は血管障害に際し動員され、病変に浸潤、炎症細胞としての形質と同時に平滑筋の形質を一部発現しながら、血管リモデリングの促進にはたらくと考えられる。
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