平成24年度の研究実績は以下の通りである.本研究の進展に伴って,一部,計画の方向性を修正している部分も含まれる. 1) 3次元ヒト両心房モデルの開発(継続):平成23年度までに開発・改良を重ねてきた2~3次元のヒト心房筋モデルを,平成24年度はさらに発展させた.それを用いて,心房細動(AF)の慢性化メカニズムおよびAF発生基質の電位的指標であるCFAEと呼ばれる複雑な心内電位波形の形成,ならびにそのCFAEを標的としたアブレーションの有用性とその治療メカニズムなどを明らかにした.また,ヒト心房筋モデルの3次元化そのものよりも,心房筋層の厚みや線維走向,さらにはコラーゲン沈着の影響といった要素の重要性が高いと判明したため,そのような解剖学的・病理学的な構造変化を組み入れることを優先した. 2) CFAE標的アブレーションの最適戦略に関する検討:上述のように,これまでに開発したヒト心房筋モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより,従来考えられたコラーゲン沈着よりも,線維芽細胞の増生の方が,心房細動の慢性化のみならずCFAE形成と密接に関わることを見出した.ただし,線維芽細胞の増生にコラーゲン沈着が加わることで,心房細動の持続性はそれほど変わらないものの,CFAE波形がより複雑となる傾向のあることが分かった.さらに,そのようなCFAEを標的に心筋をアブレーション(焼灼)する場合,焼灼点間には至適距離があること,焼灼点の分布様式によってはかえってリエントリーが持続し,AFが心房頻拍に移行しやすくなることが分かった.シミュレーション結果は,すべてコンピュータグラフィックスで可視化した.本研究結果は,今後の慢性心房細動に対するCFAE標的アブレーションの最適戦略を考える上で,理論的根拠となるものである.本研究に関連した成果により,日本生体医工学会の最高賞にあたる荻野賞を受賞した.
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