研究概要 |
潜在性突然死症候群の代表的疾患である薬剤性QT延長症候群を対象に遺伝的背景とその分子病態を検討し、Circulation誌Arrhythm Electrophysiolにその結果を報告した。何らかの薬剤を内服後に致死性不整脈イベント(torsade de pointes)を認めた20症例(平均年齢65歳)を対象に遺伝子検索を施行した結果、8例(20%)に遺伝子変異を認めた。この頻度は先天性QT延長症候群の発端者における同定率(52%)と差を認めなかった。一方、抗不整脈薬の内服で発症した症例における遺伝子変異同定率は、抗不整脈薬以外の薬剤による発症症例より有意に低率であった(21%vs. 83%, p<0.05)。哺乳類細胞を用いた強制発現実験での機能解析により、これらの変異は軽微な電流減少やゲーティングの変化を有していた。活動電位持続時間のシミュレ-ションでは、薬剤性QT延長症候群で認めた変異チャネルの特性を有する心筋活動電位は正常と先天性QT延長症候群の中間に位置した。以上のことから、薬剤性QT延長症候群はいわゆる"不完全型"QT延長症候群の一種であり、潜在的に有する機能異常により再分極予備能(repolarization reserve)が失われていることが発症に関与していると考えられた。またKCNE1の遺伝子多型であるD85NがQT延長症候群で見出される頻度が有意に高く、発現細胞を用いた検討において遅延整流性カリウムチャネルの電流抑制をきたすことから、臨床病態に関与したFunctional SNPであることが示唆された。この結果はJ Am Coll Cardiol誌に報告した。
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