本研究では、1)ミトコンドリアDNAのコピー数の変化が細胞内ストレスに対してどのようなネットワークで核への情報伝達が可能となるのかを細胞レベルで明らかにし、2)ミトコンドリアDNAを後天的に増加させる方法の確立と動物実験での有効性の実証、の両面から解析することを研究の目的とした。 平成21年度に、カルシニュリン阻害因子MCIPの発現が抑制されていた結果ならびにNFATのリポーターアッセイの準備を行い、平成22年度は、NFAT-Lucプラスミドを作成、アンジオテンシンIIおよびエンドセリン-1の刺激に対するNFATの活性化を測定する系を確立した。これらの測定系によって、肥大シグナルを仔ラット心筋細胞に付加することにより、NFATが活性化することが明らかとなった。さらに、TFAM導入によりミトコンドリアDNAを増加(~1.8倍)した状態では、これらのNFAT活性化がほぼ完全に抑制され、その下流であるMCIPの発現も低下、さらにファロイジン染色により細胞肥大も抑制されることが示された。また、2)については、同時に、リコンビナントTFAMタンパクの精製系を確立し、タンパクの心筋細胞への直接投与によりミトコンドリアDNAのコピー数が増加することを明らかにした。以上の結果から、TFAM導入によるミトコンドリアDNAの増加は、肥大シグナルに対するNFATの活性化を抑制することで抗リモデリング効果を発揮していることが明らかとなり、リコンビナントTFAMは今後新たな心不全治療手段として可能性を有することが示唆された。
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