研究概要 |
"Fortilin"は,p53に直接結合し,その作用を抑制するタンパクである.p53は発癌抑制や,動脈硬化の進展,心不全,細胞老化等に重要な役割を果たすことが報告されている.今回我々は,心臓におけるFortiIinの機能を明らかにするために,同タンパクを心臓特異的に過大発現したマウス(トランスジェニックマウス)を作成した. 心不全の発症におけるFortilinの役割の評価のため,アドリアマイシン投与による急性心筋障害がひきおこす心不全の病態を評価した.上記マウスと,コントロールマウスへアドリアマイシンを腹腔内投与し,投与後一週間の心機能を,カテーテル検査,心エコー等により評価した.投与量,投与期間などの最適条件を検討した上で,20mg/Kg投与後で評価を行ったところ,アドリアマイシンによる心収縮能の低下が,Fortilinトランスジェニックマウスにおいては,比較的軽度しか見られないことが分かった. アドリアマイシンは,p53を介して心不全を引き起こすことが知られており,Fortilinはp53を抑制することにより,この発症を抑制したと考えられた. アドリアマイシンは,乳癌等多くの癌治療に用いられている有用な抗がん剤である.ところが,心筋障害を引き起こすため,その使用量が制限されてしまい,十分な量の投与を行えない場合がしばしばあることが問題となっている.FortiIinはこの副作用を抑制する効果があると考えられる.したがって抗がん剤治療に際して心臓のFortilinの機能を促進することで,より有効な癌治療の施行が可能となりうることが示唆された.
|