膜蛋白質ABCA1は細胞外のヘリックス型アポリポ蛋白質と反応して膜脂質とアポリポ蛋白質からなす複合粒子としてHDLを産生する。ABCA1の機能欠損は血症HDLの欠損に帰結することから、ABCA1はHDL産生に必須の因子であると考えられる。ABCA1遺伝子の発現は主として転写制御因子LXRが通常細胞内コレステロールの上昇を感知して増加することにより制御される。しかし、これとは別に、1)細胞増殖などを制御する転写制御因子AP2による負の発現制御が存在する。また、2)ABCA1蛋白質はカルパインにより分解され、これがABCA1活性制御の重要な機構とも認識されている。本研究課題では次のことを明らかにした。 1)に関して、AP2のABCA1への抑制的転写制御がPKDによるAP2{alpha}の特異的リン酸化により行われ、この機序がAP2{beta}のPKDによるリン酸化がアディポネクチン遺伝子発現の抑制的制御を行う機構と共通であることを見いだした。これは、PKD阻害剤がアディポネクチンとHDLの上昇をもたらすことを意味し、実際それが動物実験でも確かめられた。2)に関して、カルモジュリンがカルシウム依存的にABCA1と結合してそのカルパインによる分解を抑制することが分かった。以前から見いだしていたカルモジュリン阻害剤W7がABCA1によるHDL産生を高める反応が、W7によるカルモジュリンのABCA1への結合の増加によるものであることが明らかになった。
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