虚血性心疾患や癌をはじめ様々な病態において血管新生の役割が解明されるとともに、基盤となる血管形成に関する研究が重要性を帯びてくる。転写調節因子であるHrt1/Hrt2の遺伝子変異マウスの解析から、個体発生において血管内皮細胞のHrt1/Hrt2機能が必須であることが明らかにされている。一方、様々な成人疾患における血管新生の病的意義が注目されていることから、成体におけるHrtの機能解析は重要であると考えられるが、Hrt1/Hrt2ダブルノックアウト(KO)マウスが胎生致死であることから成体におけるHrtの機能は不明のままである。当初の計画では、ドイツMax Planck InstituteのRalf Adams博士より供与いただいたCadh5-Cre^<ERT2>に対して適切な交配を行い、Cadh5-Cre^<ERT2>・Hrt1^<ko/ko>・Hrt2^<ko/flx>マウスを作成し、内皮特異的にHrt2を誘導欠損させる予定であった。予想に反して、中間産物であるHrt1^<ko/ko>・Hrt2^<ko/->が胎生致死性であり、目的の遺伝型マウスへの到達は困難であった。次善の策として、血管内皮細胞におけるHrt1とHrt2の意義を解明するために、Hrt1^<ko/ko>あるいはHrt2^<ko/ko>マウスを用いて、下肢動脈結紮モデルを作成して、解析を行った。Laser Dopplerによる血流量測定の結果、これまで少なくともHrt1^<ko/ko>において術後の血流回復が有為に減少することが明らかになった。以上のことから、Hrt1遺伝子は血管新生に重要な機能を有していることが示唆された。血管内皮細胞のどのような細胞機能にHrt1欠損が影響を与えるのかを解明することが今後重要であると考えられる。
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