インスリン抵抗性は動脈硬化を促進させる独立した危険因子と報告されている。しかし、インスリン抵抗性は、同時に耐糖能異常、脂質代謝異常や高血圧なども併発するため、インスリン抵抗性そのものが動脈硬化に与える影響を検討することは困難である。従来のマウスモデルでもインスリン抵抗性が動脈硬化を促進させることを示しているが、高コレステロール血症も同時に合併しており、インスリン抵抗性そのものが動脈硬化にどの程度寄与しているかは必ずしも明らかになっていなかった。我々は、肥満インスリン抵抗性モデルであるKKAyマウスに高コレステロール食を負荷することにより、コレステロールに独立して全身のインスリン抵抗性が動脈硬化を促進させるモデルを作成した。 また、この際に、全身のインスリン抵抗性に伴ってマクロファージにおいてもインスリンシグナルが低下し、マクロファージでの炎症性サイトカインの発現が増加していることを確認した。次に、IRS-2欠損マウスと野生型マウスの骨髄細胞を取り出し、野生型マウスの骨髄移植を行い、マクロファージを含めた顆粒球特異的インスリンシグナル低下モデルとコントロールを作製した。この結果、全身のインスリン抵抗性を認めない状態でもマクロファージ局所でのインスリンシグナルの低下がマクロファージでの炎症を惹起し、大動脈血管壁への単球の接着を亢進させることも確認した。これらのことから、全身及び局所のインスリンシグナルの低下が動脈硬化を促進させる因子であると考えられ、インスリンシグナルの低下への介入が動脈硬化の発症進展を抑制するために重要であると考えられる。本研究の結果、ヒト血中単球のインスリンシグナルを測定することにより、動脈硬化進展を占う新規インスリン抵抗性のマーカーになりうる可能性がある。
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