アルドステロンは心不全の病態生理において中心的な役割を担っていると考えらが、心筋細胞に対する直接的な生理作用については未だ十分に解明されていない。一方、糖代謝におけるアルドステロンの位置づけが最近注目されてきている。我々はアルドステロンの心筋細胞に対する直接的生理作用を短期的効果(非ゲノム作用)と長期的効果(ゲノム作用)とに分けて考え、特にインスリンシグナルとの関わりに注目し解析を行った。仔ラット培養心筋細胞にアルドステロンの短時間あるいは長時間刺激を加え、インスリンシグナルの下流蛋白であるAktやGSK-3β活性の経時的変化について検討した。アルドステロンの長時間持続刺激によりAktやGSK-3βのリン酸化は増加した。ヒト不全心ではAktが持続的に活性化しており、negative feedbackを介して上流蛋白を阻害、インスリン抵抗性を引き起こしていることを我々は以前報告している。MR阻害薬がこれらのリン酸化を緩和したことから、アルドステロン長期刺激が不全心におけるインスリンシグナル阻害に深く関わっている可能性が示唆された。興味深いことにアルドステロンは極短時間刺激においても一過性にAktやGSK-3βのリン酸化を上昇させた。つまりアルドステロンはインスリンシグナルを二相性に活性化させる可能性が考えられた。これらの現象の病態生理学的意義を検討するため、次に心筋細胞に過酸化水素による酸化ストレスを加え、細胞障害を引き起こした。驚くべきことに、アルドステロン短期刺激は細胞障害を有意に緩和した。この細胞保護作用はPI3K阻害薬により失われたものの、MR阻害薬は特に有意な影響を与えなかった。以上の結果から、アルドステロンがインスリンシグナルを介し、障害心筋に対して長期的には悪影響を、逆に短期的には好影響を与えている可能性が示唆された。
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