昨年までの検討により、成体マウス由来Sca-1陽性細胞は、その分泌するVCAM-1により、血管新生促進効果、酸化ストレスからの心筋細胞保護効果、さらに自身の遊走促進効果を示すことが明らかとなった。今年度は、Sca-1陽性細胞シート移植による心機能改善効果とVCAM-1との関連を検証した。Sca-1陽性細胞シートを心筋梗塞マウスの心臓に移植すると、移植2~3週目にかけて左室短縮率の改善が顕著となることから、この時期にVCAM-1の受容体であるVLA4に対する中和抗体をマウスの腹腔内投与し、心機能、心臓の線維化、血管新生、移植細胞の生着について評価した。Sca-1陽性細胞シート移植により認められていた左室径の拡大抑制および左室短縮率改善効果、さらには心臓カテーテル検査での+dp/dtの改善、左室拡張末期圧の抑制効果が有意に消失することが明らかとなった。シート移植4週目での心臓組織を用いたマッソントリクロム染色では、シート移植による線維化抑制効果は、VLA4中和抗体により有意に消失し、心臓線維化が促進していることが観察された。また抗von Willebrand factor抗体を用いた免疫染色では、シート移植による梗塞境界部での血管数増加効果が、やはりVLA4中和抗体により抑制される結果が観察された。Sca-1陽性細胞は、レトロウイルスベクターによる遺伝子導入の結果、恒常的にRFP蛋白を発現することから、抗RFP抗体を用いた免疫染色により移植細胞の生着を評価した。梗塞境界領域で観察されていたRFP陽性細胞は、抗VLA4抗体投与群では有意に減少していた。以上より心臓由来Sca-1陽性細胞シート移植は、移植により心臓内で発現が亢進したVCAM-1が、その受容体であるVLA4を介し、血管新生や線維化抑制、そして自身の生着の維持を介して心機能の改善効果に寄与しているものと考えられた。
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