心機能における一酸化窒素合成酵素(NOS)システムの役割は全く知られていない。この点を、我々が最近に開発に成功したNOSシステム完全欠損マウスを用いて検討した。NOSシステム完全欠損マウスにおいては左室肥大、心筋繊維化が有意に認められた。さらに、同マウスでは、心収縮は保たれているにもかかわらず、心エコーで評価されるE/A比、血行動態学的に評価される-dP/dtとTauといった心拡張能のパラメーターがいずれも悪化していた。さらにこのマウスでは、左室拡張能障害に伴い、左室拡張末期圧の上昇や肺重量の増加を認めていることより、心拡張不全を背景とした心不全を発症しているものと思われた。さらに、アンジオテンシンII 1型受容体拮抗薬オルメサルタンの長期投与は、NOSシステム完全欠損マウスにおけるこれらのパラメーターすべてを有意かつ著明に改善した。従って、アンジオテンシンII 1型受容体経路が、NOSシステム完全欠損マウスの心不全発症の分子機序に関与していることが示唆された。高齢者の拡張不全による心不全の罹患・死亡は、収縮不全による心不全に匹敵し、高齢化社会の著しい我が国においては重要な問題である。本知見は、我々が明らかにしたNOSシステム破綻が、メタボリック症候群・粥状動脈硬化症・心筋梗塞発症のみならず、拡張不全を背景とした心不全発症において重要な役割を果たすことを明らかにしており、社会的・臨床的・学術的な意義が大きいと考えられた。
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