In vitro実験では、ヒト全長アディポネクチンをヒト肺癌細胞(A549)へ直接投与し、MTS assayを行って細胞増殖能を評価した。その結果、ヒト全長アディポネクチンは肺癌細胞の増殖に影響を及ぼさない事がわかった。また、マウス全長アディポネクチンをA549細胞に投与しても、同様に細胞増殖には影響をおよぼさなかった。次に、ヌードマウスへ肺癌細胞を皮下移植し、そのマウスヘヒト全長アディポネクチンを投与したところ、早期の段階で(14日未満)腫瘍増殖を抑制する事が示された。このことから、ヒトアディポネクチンが肺癌腫瘍に対して直接的に効果を及ぼすものではなく、腫瘍の環境、とくに腫瘍間質に影響を与える事が示唆された。 腫瘍間質を評価するため、まず、移植腫瘍切片を抗CD31抗体で免疫染色を行ったところ、腫瘍血管と思われるCD31陽性細胞数がアディポネクチン投与群で減少していた。また、ヌードマウス骨髄をGFPトランスジェニックマウスの骨髄で置換した骨髄移植モデルを作成した。これにより骨髄細胞がGFPトランスジェニックマウス由来となり、骨髄細胞のみGFPで標識することができる。これらの骨髄移植マウスへ同様にアディポネクチンを投与した結果、腫瘍切片における骨髄由来細胞(GFP陽性細胞)が投与群で減少している事が示された。 以上から、ヒト全長アディポネクチンは宿主の骨髄油彩細胞の腫瘍集積抑制効果を介して腫瘍増殖を抑制するものと考えられた。 次年度では、上記を再検証・再確認するとともに、マウス肺癌肺転移モデルを用いて、ヒト全長アディポネクチンの転移抑制効果を検討する。
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