上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)はEGFR活性型遺伝子変異(EGFR変異)を有する肺癌に著効を示す重要な分子標的薬であるが、EGFR変異を有するにもかかわらず25-30%の症例ではEGFR-TKIが奏効しない(自然耐性)ことや著効例においても獲得耐性を生じ再燃する(獲得耐性)ことが臨床上大きな問題となっている。本研究では宿主由来HGFによる変異型EGFR陽性肺癌のゲフィチニブ耐性機構解析とともに、HGF-MET系を標的としたEGFR-TKI耐性克服薬の開発を目的として、以下のような成果をあげた。 1) ヒト細胞株のHGF産生をELISAで測定したところ、肺がん細胞株や血管内皮細胞株(HUVECとHMVEC)ではなく線維芽細胞株がHGFを高発現していた。 2) 肺癌組織を用いた蛍光染色でも、症例によっては間質の線維芽細胞がHGFを過剰発現していた。 3) 共培養することにより、HGFを高発現する線維芽細胞株および肺癌組織から得た初代培養線維芽細胞は、肺癌細胞株(PC-9やHCC827)のゲフィチニブ耐性を誘導した。 4) SCIDマウス皮下にPC-9とヒト線維芽細胞株MRC-5を混合接種するモデルにおいて、腫瘍はゲブィチニブに耐性化したが、抗HGF抗体やHGF-MET阻害薬であるNK4併用することで線維芽細胞によるゲフィチニブ耐性を克服したえ。 5) 以上の結果より、腫瘍微小環境を形成する線維芽細胞が産生するHGFがEGFR活性型変異を有する肺癌のゲフィチニブに対する自然耐性および獲得耐性の原因の一つになっている可能性が示唆された。また、HGF-MET阻害薬併用により耐性が克服できる可能性が示されたため、現在最適の耐性克服治療法を確立すべくさらに検討を進めている。
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