研究概要 |
哺乳類の時計遺伝子には、視交叉上核に発現する中枢時計遺伝子と末梢組織に発現する末梢時計遺伝子が存在する.今回,我々はヒトの呼吸器疾患における時計遺伝子発現の関与およびその機能を評価することを目的とした.しかし,現実的にヒトでは中枢時計遺伝子の評価は不可能であるため,末梢時計遺伝子モデルとして培養細胞を,in vivoでの臓器レベルの末梢時計遺伝子解析のために肺癌患者の外科的切除肺組織を用いて検討を行った. 培養細胞での検討では,当科の保有する肺癌培養細胞株16種に対して網羅的に時計遺伝子hPer1,hPer2,hPer3,hClock,hBmal1のmRNA発現を測定した.その結果,発現量の多い細胞と少ない細胞との各時計遺伝子発現量の比はおよそhPer1では13:1,hPer2では57:1,hPer3では42:1,hClockでは9:1,hBmal1では8:1であり,それぞれ比較的大きな差が得られた.しかし,5種の時計遺伝子をすべて高発現するといった細胞は存在せず,細胞の種類によって時計遺伝子の発現パターンは様々であった.現在,hPer1についてはA431とLK79,hPer2については11-18とH1975を用いて時計遺伝子の過剰発現・発現抑制を行い機能解析中であるが,まだ成果の集積が十分でなく報告するに至らない. 外科的切除肺組織での検討では,同一サンプルを組織学的に癌部・非癌部に分け,各種時計遺伝子mRNA発現量を比較した.その結果,癌組織であるからといって一定してある種の時計遺伝子発現が多い(少ない)とは限らなかった.これは組織型や分化度などの要因が影響している可能性もある.今後,さらに症例数を増やしてサブ解析を行っていく予定で研究を継続中である. 間質性肺炎については,平成22年度も適切な外科的肺生検症例がなく,残念ながら本研究期間中には検体の収集ができなかった.
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