我々はインフルエンザウイルス感染および細菌の重複感染に伴う致死的肺炎の発症や病態を解析し、治療および感染予防・重症化対策へフィードバックすることを大きな目標としている。 今年度は、以前から我々が強い関連を指摘している自然免疫因子:Toll-like Receptors(TLRs)関連分子であるIRAK-Mのノックアウト(KO)マウスを用いた感染実験を進めた。IRAK-MはTLRsのnegative regulatorであり、この分子のKOマウスでは自然免疫系の活性化が予想された。 この際に、過剰な量のインフルエンザウイルスを感染させたところ、過剰な炎症反応が惹起され、ウイルス感染単独でも非常に強い出血を伴う重症肺炎が観察された。肺ホモジネートや肺洗浄液(BAL液)の解析では、これらのKOマウスでは炎症性サイトカインやケモカインの過剰な産生が観察され、いわゆる「サイトカインストーム」が惹起されていると考えられた。特に好中球の活性化が病態の惹起に関与している可能性も示唆された。 肺病理組織を解析したところ、気道上皮を含む肺組織での過剰かつ早期からのアポトーシスが観察され、肺組織の破壊が強く進行したことが確認された。一方、肺BAL液の解析ではBAL中アルブミン量の増加も観察され、結果的に肺の重度の炎症と同時に、重度の肺水腫が起こっており、これがインフルエンザ感染による重症肺障害の機序一つである可能性を示したと考えている。今後、これらを好中球活性化の抑制も含めて、重症化予防・治療へ応用できる可能性をさらに検討する予定である。 また、新規の抗インフルエンザ薬の開発が進められた中、我々は世界初の点滴インフルエンザ薬「ペラミビル」の開発・治験に大いに関与し、これを「商品名ラピアクタ」として、上市することにも貢献したと考えている。
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