申請者は、同じヒト肺癌細胞株由来の高頻度リンパ節転移株と通常の株を保持しており、これらの細胞に小胞体ストレスを惹起させ、小胞体ストレス関連分子の活性化について検討した。小胞体ストレス誘導剤であるタプシガルギン、ツニカマイシンにて刺激を行ったところ、高転移株では通常株と比較して、CHOP、Bipの誘導が高かった。また、免疫不全状態マウス(NOJマウス)にこれらの細胞株を皮下移植しマウス担癌モデルを作成した。腫瘍の大きさ、血管新生の程度は移植後4週目においては、両群に差を認めなかった。摘出した腫瘍をBiPにて免疫染色を行ったところ、高転移株の方がBiPの発現を強く認めた。申請者らはヒト単球性細胞株THP-1を用いて、小胞体ストレス刺激を行いcaspase-5が誘導されることを見出している。THP-1細胞においては、ツニカマイシン、タプシガルギン刺激にてcaspase-5の著しい誘導を認めた。癌細胞は自身の著しい増殖能のため腫瘍内部は低酸素・低栄養状態であることは以前より報告されている。申請者は、高転移株、通常株を無グルコース、1%FCS培地にて24時間培養し、CHOP、BiP、caspase-5の誘導をリアルタイムPCRを用いて解析したところ、高転移株において、CHOP、BiP、caspase-5の誘導を認めた。一方、通常株においては、それらの遺伝子の誘導は高転移株と比較して低値であった。これらの結果より、高転移株は小胞体ストレスに対する応答が高く、その結果転移に優位に働いている可能性が示唆された。癌転移におけるcaspase-5の役割は未だ不明であり、今後はさらなる解析が必要であると思われる。
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