申請者は小胞体ストレス刺激によって、血管新生因子Angptlが誘導されることを見出した。そこで、申請者が所持している同じヒト肺癌細胞株由来の高頻度リンパ節転移株と通常の株を用いて、Angptlの誘導について検討した。これらの2種類の細胞株を用いて、転移しやすい細胞としにくい細胞においてAngptl発現比較解析が容易になる。がん細胞は自身の著しい増殖能のため、血管から供給される酸素、栄養が不足し、がん病巣の中心部に近い領域は低酸素、低栄養状態であることが知られている。申請者は上述の2種類の細胞株を用いて、実際の生体における癌の環境(低酸素、低栄養状熊)を誘導して、Angptlの発現をmRNAレベルで比較検討した。低酸素、低栄養状熊では、転移しやすい細胞株の方が、Angptlの誘導能が高かった。さらに、Angptlを持続発現する細胞株を樹立し、代表的な肺癌治療薬シスプラチンにて処理すると、通常の細胞株と比較してAngptlを発現している細胞株は生存能が高いことが示された。申請者は、以前ツニカマイシン、タプシガルギンなどの小胞体ストレス誘導剤によってAngntlが誘導されることをあきらかにしている。今回の結果より、実際の生体で生じていると考えちれる低酸素、低栄養条件といった小胞体ストレスが生じた際、Angptlが誘導され、Angptlを発現している細胞は、化学療法に抵抗性をもつ可能性が示唆された。またAngptlは血管、リンパ管新生を誘導する因子でもあるため、Angptlを発現している細胞は、治療抵抗性をもつだけではなく、がん細胞周囲の環境を整え、がんの浸潤・転移能が高いことが示唆された。今後はAngptl発現細胞で、がん浸潤・転移が促進されるメカニズムについて、より詳細な解析が必要であると思われる。
|