研究概要 |
本研究では、肺サーファクタント蛋白質およびリン脂質によるTLR介在炎症制御機構の全容を明らかにすることにより、過剰な炎症により惹起される病態肺進展へのメカニズムを解明し、治療応用へ向けた分子基盤の確立を目的として遂行された。以下に研究成果を要約する。(1)ラット気管支肺胞洗浄液より肺サーファクタント脂質を分離後、自動酸化により酸化肺サーファクタント脂質(OxSL)を作成した。TLR4, MD-2及びNF-κBレポーター遺伝子を発現させたHEK293細胞を用い、OxSL存在下でLPS刺激を行い、ルシフェラーゼァッセイ法によるNF-κB活性化を測定した。その結果、OxSLはNF-κBの活性化を抑制した。さらに、ラット肺胞マクロファージにおけるLPSが惹起するTNF-α分泌に及ぼすOxSLの効果を検討した。その結果、OxSLはLPS惹起TNF-αの分泌を抑制した。(2)パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)およびホスファチジルイノシトール(PI)などの陰イオン性肺サーファクタントリン脂質がMD-2およびCD14と結合することで、LPSが惹起するTLR4介在炎症応答を抑制することを明らかにした。(3)肺サーファクタント蛋白質A及びD(SP-A及びSP-D)同様、カルシウム依存性の糖質結合性を有するマンノース結合蛋白質(MBL)が、SP-AやSP-Dとは異なる機序でTLRと結合すること、さらに、TLR4^<C88A>変異体を用いた解析から、TLR4の細胞表面発現には、MD-2の存在が必須であることを明らかにした。 以上のことから、酸化肺サーファクタント脂質、陰イオン性サーファクタントリン脂質および肺サーファクタント蛋白質は、MD-2, CD14およびTLR4を介してLPS惹起炎症応答を制御することが明らかとなった。このことから、肺における自然免疫機構において、肺サーファクタントが様々な機序で生体防御機能を担っていることが解明された。
|