本研究では、肺サーファクタント蛋白質および肺サーファクタント脂質によるTLR介在炎症制御機構の全容を明らかにすることにより、過剰な炎症により惹起される病態肺進展へのメカニズムを解明し、治療応用へ向けた分子基盤の確立を目的として遂行された。以下に研究成果を要約する。 1)LPS刺激による肺胞マクロファージのTNF-α分泌に対する酸化肺サーファクタント脂質(OxSLs)の影響は、酸化程度が強いOxSLsほどTNF-α分泌抑制の効果が強いことを明らかにした。 2)TLR4を介するLPSシグナリングに必須の分子であるCD14及びMD-2について、組換可溶型CD14(sCD14)と組換可溶型MD-2(sMD-2)の作成を行った。いずれもC末端にHisタグを付加し、sCD14はglutamine synthetase amplificationによるCHO-K1細胞で発現させ、sMD-2はバキュロウィルス昆虫細胞系で発現させた。可溶性の各蛋白質は、ニッケルビーズカラムを用いて精製した。 3)OxSLsによるLPS刺激炎症応答抑制機構の解析を行った。ポジティブコントロールとして、肺サーファクタント脂質には含まれないpalmitoyl-arachidonyl-phosphatidylcholine(PAPC)を用いた。酸化PAPC(OxPAPC)は、LPSとsMD-2との結合、および、LPSとsCD14との結合をそれぞれ阻害した。一方、OxSLsは、LPSとsMD-2およびCD14とLPSとの結合のいずれも阻害できなかった。 以上のことから、OxSLは酸化度合が強いほど、TLR4を介するLPS惹起炎症応答を抑制することが明らかとなった。しかし、OxPAPCはsMD-2およびsCD14とLPSとの相互作用を阻止することで、LPS惹起炎症反応を抑制するが、OxSLsはそれらの結合を抑制しなかったことから、OxSLはOxPAPCとは異なる機序でLPS惹起炎症応答を抑制することが示唆された。
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