研究概要 |
特発性間質性肺炎、肺線維症といった非特異的慢性炎症性肺疾患は罹患率が高く、その急性増悪は致命率が高い。しかしながら、この疾患の成因、増悪の機序は今だ解明されておらず、確たる治療法も存在しない。炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)は、これらの疾患の成因や増悪に中心的な役割を果たしていると推測されている。また、上皮成長因子受容体(EGFR)を含むErbB受容体はTNFによりトランス活性化を受け、細胞をアポトーシスから回避し細胞障害を抑制する事が報告されている。しかし、この分子機構は不明な部分が多い。そこで、本研究では、以下の研究課題を解明することとした。1,TNFによるErbB受容体トランス活性化の分子機構を明らかにする。2,TNFを肺組織特異的に高発現させたトランスジェニックマウスが肺線維症に移行する過程において、TNFによるErbB受容体トランス活性化シグナルの果たす役割について検討する。平成21年度の研究実績として、ヒト気道上皮細胞(BEAS-2B)とヒト肺癌細胞株(NCI-H292)を用いて以下の知見を得た。BEAS-2BとNCI-H292細胞は、それぞれがTNFによるEGFRのトランス活性化を、1分後から受け始め15分後をピークとし4時間後でもその活性化は持続する。また、TNFの濃度依存的(0.01~100ng/ml)に活性化が強まる。このEGFRのトランス活性化をEGFRチロシンキナーゼ阻害剤で抑制することにより、TNFによるアポトーシス誘導能が促進される。EGFRのトランス活性化はTACE阻害剤の存在下で抑制されることから、TACEによるEGFRのリガンド切断による自己リン酸化が関与していることが推察された。EGFRリガンドに対する各種中和抗体を用いてEGFRのリン酸化を検討した。その結果、HB-EGF,TGF-aとEGFが関与していることが明らかになった。今後、TNFがTACEを活性化する機序について検討する予定である。
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