研究概要 |
特発性間質性肺炎、肺線維症といった非特異的慢性炎症性肺疾患は罹患率が高く、その急性増悪は致命率が高い。しかしながら、この疾患の成因、増悪の機序は今だ解明されておらず、確たる治療法も存在しない。炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)は、これらの疾患の成因や増悪に中心的な役割を果たしていると推測されている。また、上皮成長因子受容体(EGFR)を含むErbB受容体はTNFによりトランス活性化を受け、細胞をアポトーシスから回避し細胞障害を抑制する事が報告されている。しかし、この分子機構は不明な部分が多い。そこで、本研究では、以下の研究課題を解明することとした。(1)TNFによるErbB受容体トランス活性化の分子機構を明らかにする。(2)TNFを肺組織特異的に高発現させたトランスジェニックマウスが肺線維症に移行する過程において、TNFによるErbB受容体トランス活性化シグナルの果たす役割について検討する。平成22年度の研究実績として、ヒト気道上皮細胞(BEAS-2B)とヒト肺癌細胞株(NCI-H292)を用いて以下の知見を得た。BEAS-2BとNCI-H292細胞は、TNF接触により細胞表面に表出するEGFRのリガンドであるHB-EGF,TGF-αを遊離させることによりEGFRをトランス活性化するが、この機構はTACE阻害剤とSrc阻害剤で抑制される。また、EGFRのチロシンキナーゼに対する各種自己抗体でリン酸化部位を確認すると、Y1068のリン酸化が主要な部位になっていることを確認した。更に、EGFR受容体ファミリーであるErbB2,3,4のsiRNAを遺伝子導入したところ、このトランス活性化機能に影響を与えなかった。以上よりEGFRを中心としたトランス活性化機構であることを確認した。今後は、TNF-alphaトランスジェニックマウスを使用した実験系にこの機構を応用する予定である。
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