特発性間質性肺炎、肺線維症といった非特異的慢性炎症性肺疾患は罹患率が高く、その急性増悪は致命率が高い。しかしながら、この疾患の成因、増悪の機序は十分に解明されておらず、確たる治療法も存在しない。炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)は、これらの疾患の成因や増悪に中心的な役割を果たしていると推測される。また、上皮成長因子受容体(EGFR)はTNFによりトランス活性化を受け、細胞をアポトーシスから回避し細胞障害を抑制する事が報告されている。EGFRは上皮性悪性腫瘍のみではなく正常肺組織でも発現しており、細胞・組織の恒常性維持という役割を担っている。肺がん治療薬として用いられるEGFR阻害剤の急性肺障害が大きな問題となっているが、EGFR阻害剤の正常肺組織に及ぼす影響や肺障害におけるTNF-EGFRシグナルの関与については、これまで明らかにされていない。本研究では、TNF を肺組織特異的に高発現させたトランスジェニックマウス(SPC-TNF tg マウス)を用いて、TNFがEGFRをトランス活性化するシグナルの果たす役割について検討した。SPC-TNF tg マウスは、肺組織でTNFを高発現し肺胞壁の破壊を伴う肺障害もたらす、このマウスに、EGFR阻害剤であるゲフィチニブやエルロチニブを経口的に投与する事により、肺組織の間質に著しい好中球性炎症をもたらした。肺組織のタンパク質を抽出し解析した所、EGFR阻害剤投与群では、肺組織のEGFR活性が抑制されていた。さらに、肺組織で有意にアポトーシスが誘導されている事をTUNEL法で明らかにした。アポトーシス誘導シグナルであるp38MAPKがMKK3/6を介して活性化されている事が確認された。これらの知見は、特発性間質性肺炎、肺線維症といった難治性慢性炎症性肺疾患の治療指針に重要な示唆を与えるものと期待される。
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