細菌感染による細胞傷害性の分子メカニズムは、細菌の有する病原性の一旦を示している場合が多数存在する。本研究は、Nocardia farcinica IFM10152のマクロファージ細胞への感染により、誘導される細胞傷害性の分子メカニズムの解明を目的とする。本年度は、1.N.farcinica IFM 10152の野生株と細胞傷害性を示さないノコバクチン生合成遺伝子破壊株をそれぞれマクロファージ細胞に感染させた場合の網羅的遺伝子発現変化を検討した。2.ノコバクチン生合成遺伝子破壊株を用いた細胞傷害性の分子メカニズムの検討をした。 1. N.farcinica野生株とノコバクチン生合成遺伝子破壊株をそれぞれ、マクロファージ様細胞J774A.1細胞に感染させた場合の宿主細胞の遺伝子発現の変化を、アジレント社製、全マウスゲノム遺伝子発現カタログアレイを用いて検討した。その結果、非感染細胞をコントロールとした時に、2倍以上の発現変化があった3219遺伝子のうち、野生株と遺伝子破壊株との比較でP>0.1の有意差があった遺伝子は121遺伝子だった。今後、これらの候補遺伝子について、リアルタイムRT-PCRで発現の再現性およびパスウェイ解析等の詳細を検討する予定である。2.細胞傷害性を示さないノコバクチン生合成遺伝子破壊株に、鉄あるいはノコバクチンを添加し、J774A.1細胞に感染させたところ、細胞傷害性が野生型と同レベルまで回復した。このことより、ノカルジアの細胞傷害性に鉄が重要であることが示された。
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