研究概要 |
L型アミノ酸輸送体(LAT1)は、様々な悪性腫瘍で高発現している。肺癌(非小細胞癌)においてもLAT1は高発現しており、その活性を阻害することで抗腫瘍効果を認めるかどうかは調べる必要がある。さらに、アミノ酸輸送体の発現は、mammalian target of rapamycin (mTOR)のシグナル活性と関連があると言われているが、肺癌におけるLAT1発現とmTORシグナル伝達についてはまだ明らかではない。最近、肺癌では、epidermal growth factor receptor (EGFR)遺伝子変異を認めると、Gefitinibが奏功することも報告されており、LAT1阻害との相加・相乗効果についても検討する必要がある。そのため、本研究では、まず肺癌細胞株(NSC-H1395)を使い、LAT1発現の阻害効果(古典的アミノ酸輸送体阻害剤であるBCHを用いた)をin vitroで検討した。さらにgefitinibとの併用での抗腫瘍効果も評価した。さらに、LAT1発現とmTORシグナル伝達との関連も検討するため、LAT1阻害によるmTOR、p70S6K、4EBP1のリン酸化蛋白発現の変化も評価した。In vitroの実験の結果は、BCHにてH1395のcell viabilityは濃度依存的に抑制された。BCHとGefitinibとの併用で、MTT assayを施行したところ、細胞の増殖は、gefitinibの相加効果が認められた。そして、LAT1阻害により、mTOR、p70S6K、4EBP1のリン酸化は抑制され、LAT1発現におけるmToRシグナル伝達の関与が示唆された。次に、肺癌臨床検体(外科的切除標本)52症例を用いて、LAT1発現、EGFR遺伝子変異、p53、VEGF、MIB-1などのマーカーを用いて臨床病理学的な検討も行った。LAT1高発現は、血管新生や細胞増殖と密接な関係にあり、EGFR遺伝子変異とは負の相関を認めた。LAT1高発現は、肺癌における独立した予後因子であることも証明された。以上の実験結果より、LAT1発現は、EGFR遺伝子変異を持たない肺癌に多く、LAT1阻害は,EGFR野生型の肺癌における治療薬としての意義があるのかもしれない。今後の肺癌新規治療薬開発にLAT1阻害は重要であり、特にEGFR遺伝子変異を持たない肺癌における治療開発として検討していくべきものと考えられる。
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