IgA腎症の病因として考えられている糖鎖不全IgA1に着目し、メサンギウム細胞上にはこの糖鎖不全IgA1に強い親和性を持つ受容体があると想定して、糖鎖不全IgA1をプローブとして用いることにより受容体を同定することを本研究の目的とした。培養ヒトメサンギウム細胞とFITC標識糖鎖不全IgA1との結合をスクリーニングしたところ、TNF-αおよびTGF-β1の存在下に3日間培養することにより、ヒトメサンギウム細胞に糖鎖不全IgA1の受容体が誘導され、さらにTNF-αまたはTGF-β1にデキサメタゾンを加えることにより、この糖鎖不全IgA1の受容体の誘導作用が打ち消されることが明らかとなった。そこでこれら各々の培養条件で培養したヒトメサンギウム細胞からRNAを抽出し、DNA chipを用いて網羅的発現遺伝子解析を行い、TNF-αおよびTGF-β1の単独処理にて発現増強し、デキサメタゾンの添加により発現増強が打ち消される遺伝子をピックアップした。これら候補遺伝子群のなかからインテグリンβ1に着目した。インテグリンβ1も同様にTNF-αおよびTGF-β1の存在下に3日間培養することにより、ヒトメサンギウム細胞に発現が誘導され、さらにTNF-αまたはTGF-β1にデキサメタゾンを加えることにより、誘導作用が打ち消されることが明らかとなった。さらにインテグリンβ1がIgAとメサンギウム細胞との結合にかかわっているかを検証するため、siRNAによる遺伝子ノックダウンの手法を用いた。ヒト肺腺癌の株細胞であるPC14は、細胞表面に各種インテグリンα鎖およびβ1鎖を発現し、培養ヒトメサンギウム細胞と同様FITC標識したIgAと結合することが確認されている。この細胞にインテグリンβ1に対するsiRNAを導入し、フローサイトメトリー法にて受容体発現とIgAとの結合を確認したところ、インテグリンβ1陽性細胞群にはIgAの結合が認められるのに対し、インテグリンβ1がノックダウンされた細胞群にはIgAの結合は認められなかった。この結果から培養ヒトメサンギウム細胞とIgAの結合はインテグリンβ1依存的であると考えられた。
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