IgA腎症の病因としての糖鎖不全IgA1に着目し、糖鎖不全IgA1をプローブとして用いることによりメサンギウム細胞上の受容体を同定することを本研究の目的とした。培養ヒトメサンギウム細胞とFITC標識糖鎖不全IgA1との結合を、各種サイトカインや増殖因子を用いてスクリーニングしたところ、TNF-αおよびTGF-β1の存在下でヒトメサンギウム細胞に糖鎖不全IgA1の受容体が誘導され、さらにデキサメタゾンの添加により、この糖鎖不全IgA1の受容体の誘導作用が打ち消されることが明らかとなった。そこでこれら各々の培養条件で培養したヒトメサンギウム細胞からRNAを抽出し、DNA chipを用いた網羅的発現遺伝子解析からインテグリンβ1に着目した。インテグリンβ1も同様にTNF-αおよびTGF-β1の存在下でヒトメサンギウム細胞に発現が誘導され、デキサメタゾンを加えることにより、誘導作用が打ち消された。さらにインテグリンβ1がIgAとメサンギウム細胞との結合にかかわっているかを検証するため、siRNAによる遺伝子ノックダウンの手法を用いた。ヒト肺腺癌の株細胞であるPC14は、細胞表面に各種インテグリンα鎖およびβ1鎖を発現し、培養ヒトメサンギウム細胞と同様FITC標識したIgAと結合することが確認されている。この細胞にインテグリンβ1に対するsiRNAを導入し、フローサイトメトリー法にて受容体発現とIgAとの結合を確認したところ、インテグリンβ1をノックダウンした細胞ではIgAの結合が著しく低下した。この結果から培養ヒトメサンギウム細胞とIgAの結合はインテグリンβ1依存的であると考えられた。インテグリンβ1鎖は数種類のα鎖とヘテロダイマーを形成し、各々特異的な細胞外基質と結合するが、ヒトIgA腎症患者の腎生検組織上の分布ならびにsiRNAによる実験から、インテグリンα2/β1ヘテロダイマーが糖鎖不全IgA1との結合に関与していると考えられた。
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