ヒトEs・iPS細胞由来血管内皮細胞(Es・iPS-EC)の細胞機能をヒト大動脈内皮細胞と比較検討したところ、増殖、遊走、酸化ストレス耐性能がES・iPS-ECで高いことを見いだした。この差異は何に由来するのかを明らかにするために、マイクロアレイ解析を行い、Es・iPS-ECではSIRT1発現が高いことに注目した。そこで、SIRT1をsiRNAで抑制したところ、両者の差が打ち消された。このことより、ES・iPS-ECの細胞機能においてSIRT1が重要な役割を担っていることが示唆された。一方、慢性腎臓病(CKD)では、初期の段階ですでに血管内皮前駆細胞が減少していることが明らかとなっているため、ES・iPS-ECの細胞移植をCKD新規治療法として注目した。CKDでは慢性低酸素状態であるため、まずES・iPS-ECの低酸素に対する反応をmicroRNAに注目して検討した。その結果、0.1%の低酸素刺激により、microRNA 210の上昇および、そのターゲット遺伝子であるiron-sulfur cluster assembly proteinのdown-regulateを確認した。この反応は、成人内皮細胞ですでに報告されており、細胞が生き残るために解糖系代謝を亢進させる重要な反応である。さらにこの反応がヒト大動脈内皮細胞に比べて大きく、ES・iPS-ECは低酸素耐性が強い可能性も考えられた。このことより、ES・iPS-ECは低酸素状態において代謝をスイッチさせることが可能であることが示唆され、CKDに対して有用な移植ツールとなりうる可能性が示唆された。今後は、実際にCKDモデル動物への細胞移植を行い、治療効果を検討する所存である。
|