研究概要 |
本研究の目的は老化と糸球体硬化を架橋する分子機構の解明である。糸球体硬化の主たる変化とはIV型コラーゲンの蓄積である。近年我々はIV型コラーゲンの直接の転写制御因子としてSmad1を同定した。以上をふまえ、初年度に見出した知見は下記の三点である。第一に、初年度は糸球体硬化の責任分子Smad1の強発現マウスを制作し、加齢性腎変化と同様の糸球体硬化を呈する糖尿病性腎症を惹起してその糸球体病変を観察した。その結果、野生型マウスに比して糖尿病を惹起したSmad1強発現マウスには著明な糸球体硬化が観察された。第二に、老化にともない蓄積する因子に着目した。腎の加齢変化を引き起こす外的因子の一つに終末糖化産物(AGE)がある。我々はメサンギウム細胞のAGE刺激により増殖因子Growth arrest specific gene 6の分泌が亢進することを見出し、Gas6欠損マウスにおいては、加齢(48ヶ月齢)にともなう糸球体硬化病変が抑制されることを示した。さらに、その分子メカニズムとして、老化制御因子Aktと硬化制御因子Smad1の活性化が関与している可能性をマウスで証明した。現時点ではこれらを結びつける因子は不明であるが、近年Aktの下流分子GSK3 βがSmad1の細胞内発現を制御するという報告もあり、我々の加齢マウスにおいてもGSK3 βの活性化および、Gas6欠損加齢マウスにおけるリン酸化GSK3 βの抑制が確認されていることは興味深い。第三に、培養メサンギウム細胞において、糸球体硬化に関わる中心的増殖因子TGF-β刺激により、老化関連因子PIASyが濃度依存的に誘導されることを証明した。以上の三つの結果は、加齢関連因子(Akt, PIASy)と硬化関連因子(TGF-β, Smad1)が複雑にクロストークしていることを示唆する重要な知見であり、これらの細胞内シグナル伝達経路を引き続き検討中である。
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