慢性腎不全により透析医療を要する新規患者の約3割(約1万人)が慢性糸球体腎炎を原疾患としており、この慢性糸球体腎炎で最も頻度の高いものがIgA腎症である。したがって、IgA腎症の進行メカニズムの解明及び治療法の開発は、増加の一途を辿る透析医療費の削減に繋がると考えられると考えられ、本邦の医療経済的上も大変重要である。IgA腎症の進行には、腎機能障害、蛋白尿、高血圧、腎病理組織学的所見等の古典的予後予測因子に加え、肥満、脂質異常症、耐糖能異常等の動脈硬化性疾患関連因子が関与している事が近年明らかにされた。また遺伝要因も重要な進行予測因子として考えられており、動脈硬化性疾患関連遺伝子多型が、IgA腎症の進行予測因子である可能性が高い。 本研究は、single Nucleotide Polymorphism(SNP)を主とする動脈硬化性疾患関連遺伝子多型100種類の中から、IgA腎症の進行関連遺伝子多型を同定する事を目的とした多施設縦断的観察研究である。対象患者は、1990年~2005年に大阪大学医学部附属病院、大阪府立急性期・総合医療センター、大阪労災病院でIgA腎症と診断された1132例のうち、2006年~2008年に同施設を受診した患者320例である。提供された末梢血ゲノムDNAを用いて、動脈硬化性疾患関連遺伝子多型100種類の遺伝子型を同定した後、Cox比例ハザードモデルを用いて、腎不全への進行(血清クレアチニン値の1.5倍化及び推算糸球体濾過量estimated glomerular filtration rate (eGFR))と関連する遺伝子多型として、glycoprotein Ia (GPIa) C807T/G873Aとintracellular adhesion molecule-1(ICAM-1)A1548G(K469E)を同定した。また本研究のために作成した臨床情報データベースを用いて、腎生検時の喫煙本数が腎不全への進行(血清クレアチニン値の1.5倍化、2倍化、透析導入)の予測因子である事も明らかにした。これらの研究成果はIgA腎症の進行メカニズムの解明及び進行を抑制する治療法を開発する上で重要な知見をもたらしたと同時に、本邦における透析医療費の削減に繋がる可能性を有すると考えられる。
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