研究概要 |
これまでに我々は、糖尿病性腎症の進展過程において慢性炎症や細胞周期異常が関与していることを報告してきた。さらに、最近PPARγアゴニストであるチアゾリジン誘導体が慢性炎症や細胞周期異常を是正することによって治療効果を発揮することを報告した。我々の報告を含め、PPARsの糖尿病性腎症に対する作用機構に関する知見は徐々に集積されつつあるが、一方LXRに関しては未だまったく解明されていない。そのため、糖尿病性腎症に対して核内受容体LXRの役割を解明するために、LXRアゴニスト(T0901317,Sigma-Aldrichより購入)を糖尿病モデル動物に投与する検討を行った。なお、糖尿病性腎症への治療効果を検討する際に、肥満動物モデルでは脂質や血糖といった代謝改善がもたらされ、それに伴う腎症治療効果があるため、ストレプトゾトシン誘発糖尿病(1型糖尿病)モデルを用いて検討を行った。雄性C57BL/6マウスを(1)非糖尿病群+vehicle投与群、(2)糖尿病群+vehicle投与群、(3)糖尿病群+T0901317投与群の3群に分類し、8週齢より8週間投与した。評価項目として、体重、血圧、HbAlc、尿中アルブミン、クレアチニンクリアランスを測定した。LXRアゴニスト投与により、体重、血圧、HbAlcに有意差は認めなかったが、糖尿病誘発後8週目で尿中アルブミンの有意な減少を認めた。組織学的にはLXRアゴニストは糖尿病群で認められる糸球体肥大とメサンギウム基質の増加を抑制した。LXRアゴニストは1型糖尿病マウスにおいて、アルブミン尿と腎組織障害を改善することが明らかとなった。さらに、腎組織内のマクロファージの浸潤や、炎症性サイトカインのmRNA発現もLXRアゴニスト投与により抑制されていた。これらにより、LXRアゴニストは糖尿病による慢性炎症を是正することにより、糖尿病性腎症に対する効果を発揮することが示唆された。
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