酸化ストレスが固体老化あるいは細胞老化に深く関与することは周知の事実であるが、その分子メカニズム、とりわけ骨格系における関連分子並びにその調節機序を示した成績は少ない。我々はショウジョウバエにおいて抗酸化防御機能を有し寿命制御に関わるとされるMBF1に着目し、高等真核生物においても酸化ストレス環境下での老化、特に骨芽細胞機能の維持に関与するか否かを明らかにすることを目的として検討を試みた。(1)MBF1はマウスにおいて骨を含めほぼ全ての組織で発現を認めたが、その発現は老化マウスで低下していた。(2)骨芽細胞前駆細胞株(ST2)はBMP-2刺激で骨芽細胞へと分化するが、これは内因性MBF1の抑制(siRNA)により減弱した。またMBF1を恒常的に発現するST2細胞株を作成し、骨芽細胞・脂肪細胞分化誘導能を検討したところ、MBF1発現株では対象株に比して骨芽細胞分化が亢進していた。一方脂肪細胞への分化は強く抑制されていた。(3)次に酸化ストレスが骨芽細胞に及ぼす影響へのMBF1の関与について検討を加えた。ST2を過酸化水素で処理すると高濃度では細胞死を、低濃度でも細胞分化を抑制した。この作用は内因性MBF1の抑制により増強された。一方MBF1発現株では対象株に比してより高濃度の過酸化水素存在下でも生存し得た。以上の成績から、MBF1はマウスなどの高等真核生物においても機能的に発現し、細胞を酸化ストレス刺激から防御する機能を有することがわかった。またMBF1は骨芽細胞・脂肪細胞の分化の振り分けを骨芽細胞側へとシフトさせることで骨形成を調節している可能性が示唆された。MBF1の発現はほぼ全ての組織に認められることから、血管系においても同様の機序の存在が示唆される。今後、血管系細胞におけるMBF1の役割についても解析を進めたい。
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