老人性骨粗鬆症の発症に酸化ストレスが関与することは周知の事実であるが、その分子機序、とりわけ骨芽細胞分化における関与を明確に示した成績は少ない。我々は抗老化因子MBF1が加齢に伴う骨量減少に関わるか否かを明らかにするため、正常若齢(7週齢)及び老齢(32週齢)マウスの骨組織におけるMBF1の発現を比較した。その結果、骨でのMBF1タンパクの発現は老齢マウスにおいて著しく減少していた。なおMBF1タンパクの量はMG132添加により増加することからプロテアゾーム経路依存性である可能性が示唆された。次に、骨芽細胞分化におけるMBF1の役割について解析を加えた。骨芽細胞前駆細胞(ST2)はBMP-2でALP陽性骨芽細胞へと分化するが、これはsiRNAによる内因性MBF1のknockdownにより減弱した。またMBF1を恒常的に発現するST2細胞株を樹立し、各細胞系列への分化誘導能を検討したところ、MBF1発現株はBMP2刺激下での骨芽細胞分化が亢進していた。なお脂肪細分化は逆に抑制傾向を示した。また培養骨芽細胞株は過酸化水素により高濃度では細胞死が、また低濃度であっても細胞分化の抑制が見られるが、MBF1発現株ではその影響は軽微であった。以上の成績から、MBF1は酸化ストレス負荷に抗することで、骨芽細胞分化促進・脂肪細胞分化抑制を介して骨形成を正に制御している可能性が示唆された。そこで次にMBF1の標的分子の検索を試みた。タンパク相互作用解析の結果、MBF1はAP-1の構成要素であるJunD及びRUnx2と結合することが示された。JunDは骨形成性サイトカインIL-11の転写をAP-1依存的に誘導し骨芽細胞分化を正に制御することをすでに確認済みである。またRunx2は骨基質タンパクであるOsteocalcin遺伝子の転写促進に関わることがすでに明らかにされている。現在骨芽細胞系におけるMBF1とRUnx2との相互作用の有無について解析中である。また血管平滑筋細胞が骨芽細胞様形質を有すること、血管石灰化と血管壁硬化の親展には酸化ストレス刺激により誘導されたRunx2が重要な役割を示すことが明らかにされつつある。現在、血管平滑筋細胞でのMBF1とRUnx2の相互作用についても解析をおこなっている。
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