研究概要 |
SH-SY5YにTet-ONシステム導入し、チロシン水酸化酵素を発現誘導する細胞株を複数樹立。チロシン水酸化酵素の発現は誘導後12時間で安定し、結果として産生されるドパミンは2日間後に定常状態となった。細胞内および細胞外にドパミンが産生・放出されることは細胞溶解液および、培地においてHPLC法によって確認した。チロシン水酸化酵素の過剰発現は細胞内に過量のドパミンを産生するため、ドパミンによってもたらされた酸化的ストレスによって細胞毒性がもたらされると考えた。実際に、チロシン水酸化酵素の過剰発現で、細胞内にROS(reactive oxygen species)の増加が確認されたが、細胞死は生じず、JNK,p38などのシグナル伝達においても変化を認めなかった。 細胞外のドパミンが保護的に働く、という報告が多くあり、細胞外のドパミンの作用について検討することとした。実際には、ドパミンはドパミン受容体を介して細胞になんらかの影響を及ぼしていると考えられるため、培地にドパミンD1およびD2アンタゴニストを添加し、ドパミンの受容体への結合をブロックした。チロシン水酸化酵素の過剰発現とD1アンタゴニストの添加では細胞死は生じなかったが、D2アンタゴニストであるエチクロプリドでは細胞死(アポトーシス)が観察された。この結果はドパミンD2受容体刺激が細胞保護的に働いていることを示唆しており、確認のためD2アンタゴニストに加え、D2アゴニストを培地に添加した。D2アゴニストはキンピロールとPD-128907を使用したが、いずれも容量依存性にアポトーシス誘導を抑制した。これらの結果から、D2アンタゴニストの細胞保護効果は,薬剤固有の作用ではなく、D2受容体を介しているものと考えられた。細胞毒性と細胞保護、という相反する側面を持つドパミンであるが、本研究ではその細胞保護という観点からドパミン受容体の持つ重要性を明らかにしている。
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