本研究では、炎症制御の中心的役割を持つ制御性T細胞を虚血脳内に誘導することで、脳梗塞後に惹起される強い炎症が制御され、神経保護作用並びに神経新生促進作用が得られるかどうかを明らかにすることである。具体的には、虚血前にあらかじめ虚血特異的蛋白(E-selectin)を経鼻的に少量反復投与し、E-selectin特異的制御性T細胞を産生させることができれば、虚血後に脳内に制御性T細胞が誘導されるのではないかという仮説の元、研究を行っている。 平成21年度は、当初の研究計画通り以下の二つの点を明らかにした。 1.E-selectin経鼻投与法により、脳虚血後の脳内に制御性T細胞が有意に多く誘導される 虚血前にE-selectinを経鼻投与することにより、頚部リンパ節とともに、虚血脳内に多くの制御性T細胞が誘導されることをflow cytometry及び免疫染色により定量的に証明した。 2.制御性T細胞を誘導することにより、梗塞巣周辺での新生神経細胞の生存が増加する 制御性T細胞を誘導した虚血脳と誘導していない虚血脳に関して、Stereology法を用いて脳室下帯及び梗塞巣周辺の分裂細胞、分裂後神経細胞を定量化した。また、新生神経細胞のマーカーであるDoublecortin(Dcx)に対する抗体を用いてDcx蛋白の定量化を行った。 結果として、制御性T細胞を誘導することにより、虚血脳のDcx蛋白量は増加し、また梗塞巣周辺の神経新生細胞数も増加することが明らかとなった。 上記の結果は、制御性T細胞誘導が炎症性疾患だけでなく脳梗塞においても治療効果を発揮することを証明した初めての報告であり、次世代の脳梗塞治療の開発に結びつく重要な発見であると考えられる。
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