SIRT1活性化薬であるSRT1720を本学薬学部薬品製造学教室との共同研究で合成し、実験に使用した。SRT1720を高脂肪食マウスに投与すると、摂餌量と体重に有意差はなかったが、インスリン負荷試験や糖負荷試験において糖代謝は有意に改善した。白色脂肪組織における代表的な炎症シグナルであるJNK経路の活性化は、SRT1720投与によって抑制されていた。同時に、高脂肪食負荷マウスで低下していたIRS-1のタンパク量はSRT1720投与によって回復した。次に、脂肪組織における酸化ストレスマーカーを解析した。白色脂肪組織の8-OHdG抗体による免疫染色、hemeoxygenase-1の遺伝子発現では高脂肪食負荷マウスの白色脂肪組織で酸化ストレスが増強していたが、SRT1720投与によって軽減されていた。また、SRT1720投与によって、白色脂肪組織でミトコンドリア関連遺伝子と抗酸化遺伝子の発現が増加していた。次に、高脂肪食負荷マウスの白色脂肪組織で増加する炎症性サイトカインの発現を定量した。SRT1720の投与によって高脂肪食負荷マウスの白色脂肪組織における炎症性サイトカインの発現に有意な変化はなかった。これらの結果から、SRT1720によるSIRT1の活性化は白色脂肪組織においてミトコンドリア関連遺伝子や抗酸化遺伝子の増加を介して、酸化ストレスを軽減すると考えられる。その結果、JNK経路の活性化が減弱し、全身の糖代謝の改善に寄与すると考えられる。この結果から、SIRT1の活性化が肥満の白色脂肪組織において亢進している酸化ストレスを軽減することで、糖代謝の改善に寄与する可能性が示唆される。
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