MφのSIRT1が全身の代謝制御に与える影響について明らかにする目的で、Cre-LoxPシステムを用いた単球/マクロファージ特異的SIRT1欠損マウス(Mye-SIRT1 KOマウス)を作成、解析した。対照マウス、Mye-SIRT1 KOマウスに対し通常食または高脂肪食(HFD)を負荷した後、耐糖能、脂肪組織の炎症および低酸素関連遺伝子の発現、ATM(脂肪組織マクロファージ)の極性について解析を行った。また、マウス骨髄由来のマクロファージ(BMDM)を用い、低酸素刺激に対する炎症反応に与えるSIRT1欠損の影響について検討を行った。Mye-SIRT1 K0マウスは対照マウスに比べて体重と摂餌量は変わらなかった。HFD6週間負荷時、Mye-SIRT1 KOマウスは対照マウスと比較し、糖負荷試験における耐糖能の悪化と高インスリン血症を認めた。精巣上体脂肪組織では、ATMの数、主にM1ATMにより形成されるCrown-like Structures(CLS)の数が増加傾向を示しし、TNFαやIL-1βなどの炎症性サイトカインやHIF1αなど低酸素に関連した遺伝子発現が上昇していた。低酸素プローブであるピモニダゾールを投与しHFD負荷マウスの脂肪組織の低酸素領域を調べると、CLS領域に集積していた。フローサイトメトリーを用いた検討では、高脂肪食下のMye-SIRT1 KOマウスの脂肪組織のM1-ATMは、対照マウスのM1-ATMと比較してピモニダゾールをより多く取り込んでいた。両マウスから採取したBMDMをin vitroで1%低酸素刺激したところ、対照マウス由来のBMDMと比べMye-SIRT1_KOマウス由来BMDMでは、IL-1βやiNOsなど炎症関連遺伝子および低酸素関連遺伝子の発現が増強していた。TNFαやMCP-1などの別の炎症関連遺伝子は1%低酸素刺激によって発現が誘導されず、SIRT1欠損による増強効果も認めなかった。すなわち、in vitroにおいてSIRT1は低酸素依存性の炎症反応に対し抑制的に作用している可能性がある、と考えられた。
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