研究概要 |
我々はリンパ球を特異的に刺激する抗体の投与でマウスに脂肪肝・メタボリックシンドロームを引き起こす事を見出しているが、その詳細な機序は未だ不明である。 平成22年度までの検討で、雄C57BL/6マウスに抗リンパ球抗体を投与すると抗体投与48時間から徐々に肝脂肪蓄積が生じることが判明した。またその時に肝臓の脂肪含量、遺伝子発現の変化を検討したところ、中性脂肪の蓄積を認めており、同時に脂肪合成系酵素の遺伝子発現の増加を認めていた。この時に糖負荷検査で評価した耐糖能は、脂肪肝を誘導されたマウスで悪化していた。すなわちリンパ球抗体の投与でメタボリックシンドローム、糖尿病が誘導されたと考えられた。 本現象に重要な細胞分画を除去抗体を用いて検討したところ、NKマーカー陽性の細胞群が本現象の発症に必須であるとの結果を得た。また脂肪蓄積を生じた肝臓の遺伝子発現を検討したところTNFa,IL6等の催炎症サイトカインが増加していた。 これまでの結果に基づき、病態形成に重要と考えられた炎症性サイトカイン(TNFa,IL-6)に対する中和抗体を事前に投与し、その後に抗体の投与によってマウスに肝脂肪蓄積を誘導し、病勢抑制の程度を評価した。TNF-aに対する中和抗体を用いた検討で、脂肪肝の形成が抑制される傾向が確認された。また同様にIL-6に対する中和抗体を用いた検討では脂肪肝の形成の抑制が認められなかった。すなわち病態の形成にはTNF-aが重要と考えられ、これは現在までの肝脂肪蓄積の報告に合致するものであったが、病態形成にリンパ球も関与するという新規概念であった。これらのマウスにおいて耐糖能を評価したが、肝脂肪蓄積を呈したマウスにおいては耐糖能障害を来していた。 これらの結果より、肝脂肪蓄積の形成には旧来考えられていた食細胞を中心とする免疫機構のみならず獲得免疫も重要な役割を担っていることが示された。
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