本研究では、骨格筋組織に由来する成体幹細胞に褐色脂肪細胞の発生、分化に重要な転写因子を導入することにより、新生褐色脂肪細胞を誘導することを目的に以下の実験を実施した。骨格筋からフローサイトメーターを用いて2種類の幹細胞、筋衛星細胞と間葉系幹細胞を高純度に分取し、in vitro、in vivoで脂肪分化能を評価した。その結果、筋衛星細胞は脂肪細胞に全く分化しないが、間葉系幹細胞は非常に効率よく脂肪に分化することを見出し、その成果を論文報告した。次いで、筋衛星細胞と間葉系幹細胞からRNAを調整し、マイクロアレイにより網羅的遺伝子発現解析を行った。遺伝子発現解析ソフトを用いて、筋衛星細胞に特異的に発現している17の内在性転写因子、間葉系幹細胞に特異的に発現している11の内在性転写因子を同定した。そのうちのいくつかに関してRT-PCRにより発現を確認した。その中でも、間葉系幹細胞特異的内在性転写因子に褐色脂肪細胞形成に関連する正の転写因子Foxc2が含まれていたことは非常に興味深い。さらに興味深いことには、間葉系幹細胞から分化させた脂肪細胞の遺伝子発現を解析したところ、褐色脂肪細胞分化に重要なPRDM16や褐色脂肪マーカーであるUCP-1の発現が確認された。これらの結果から、筋衛星細胞に比べ間葉系幹細胞は脂肪分化能が圧倒的に高く、遺伝子導入等の人工的操作を介さずに褐色脂肪細胞へと分化誘導可能であることが示された。これらの成果を受け、来年度以降は間葉系幹細胞にターゲットを絞り、効率のよい褐色脂肪細胞の分化法確立を目指す予定である。
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